第一回定例会「企業におけるダイバーシティ活動」

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講演者 菅原香代子さん
6月13日(日) 機械振興会館

今年もJWEF総会に引き続いて行われた第一回の定例会は、昨年度までJWEF運営委員をされており、2005-2006年には運営委員長も務められた、日本IBM㈱の菅原香代子さんのご講演でした。(所属は講演当時)

菅原さんのお話は、まず、ダイバーシティの定義から始まりました。ダイバーシティを直訳すれば「多様性」ですが、ここでは「人材の多様性に配慮した組織作り」を意味します。ダイバーシティといえば、日本では、女性や外国人の活用のイメージが強いのに対し、さすがはダイバーシティ発祥の地であるアメリカのIBMだけのことはあり、人種・性別・年齢・障がい・宗教・価値観・性的指向など、ありとあらゆる多様性が想定されていることにまず新鮮な衝撃を受けました。続いて、その中でも特に日本IBMが力を注いでいる「女性」と「障がいのある社員」の2グループのうち、菅原さんが主として関わってこられた女性社員の支援についてお話いただきました。(なお、他の日本企業では課題であろう「外国人」については、IBMでは日本人と外国人が共に仕事をする文化が定着していることが、菅原さんのお話の端々から読み取れました。)

1998年当時、女性社員比率が各国のIBMの中で最下位だった日本IBMでは、女性社員活用のための諮問機関Japan Women’s Council(JWC)を立ち上げました。そこで明らかになった女性のキャリアアップを阻害する3要因「ロールモデルがいない」「ワークライフバランスが難しい」「相談相手がいない」に対応することで、女性社員の定着率や女性役員・管理職の比率が大幅に向上したそうです。(JWCのリーダーを務められた内永ゆか子さんは、2007年にIBM定年後も、NPO法人「J-Win」の初代理事長に就任され、企業のダイバーシティ推進を支援しつつ、女性リーダーを増やす活動を続けておられます。)しかし、JWCの活動は女性社員全般が対象だったため、女性技術者に対する支援が不足しているのではないか、という声が上がり、2005年に菅原さんが中心となりCOSMOSという女性技術者のコミュニティーが発足しました。

COSMOSでも「ロールモデルがいない」「技術者ネットワークがない」「ワークライフバランスが難しい(技術革新のスピードに追われる)」等の女性技術者育成の阻害要因を洗い出しました。そして、それらに対処するため、メンター制度、職種ごとのロールモデルセミナー、女性技術者のネットワーク作り等の活動がなされ、今も続けられています。また、将来的な女性技術者確保のために、女子中高生向けに理系の楽しさを伝えるイベントも行っています。

JWEFの会員の中でも、女性技術者特有の問題にぶつかったことが入会の動機になった方が少なくないのではないでしょうか。そんな中、一企業の中に専門の支援組織を作られたというCOSMOSの例は、非常に先進的であり、目指す方向であると感じました。また、日本IBMでは在宅勤務や短時間勤務をはじめ、ITを駆使した多様な勤務体系を取り入れているほか、ベビーシッター割引券、保育園契約等の育児・介護の支援制度も提供しているとのことです。羨ましく思う一方、IBMという先導モデルがあることで、他の職場でも制度導入を提案しやすくなるのでは、と思いました。

最後に、菅原さんは、IBM の技術者の中で、最高位のフェローに次ぐ職位である「Distinguished Engineer 」となった数少ない女性として、ご自身が強力なロールモデルとなっていることは間違いありません。菅原さんのような実績のある女性技術者が増えれば、女性技術者全体への評価が上がります。自分の仕事をきっちりこなすことが間接的に女性技術者支援に繋がるという良い例だと思いました。また、COSMOSがまとめた女性技術者のためのアドバイスの一つ一つが現実味を持って響き、自分のキャリアパスを考える上での大きなヒントとなりました。出席された一人一人が多くのものを得た定例会だったのではないかと思います。菅原さん、本当にありがとうございました。

独立行政法人 国立環境研究所 白井知子

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