JWEF定例会-講演「食にまつわるおもしろ話、深ーい話」

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2010年2月7日(日)東京体育館の第2会議室において、お二人の女性技術者による実体験に基づく講演会を実施しました。今回は特にテーマが身近な「食」であったためか、若い学生さんや一般の方が多く、合計42名ものご参加をいただきました。学生さんにはこれから就職先を考える際にこのような具体的な職業イメージが描けるお話は貴重だったのではと思います。第一部は(株)桃屋研究員の吉田睦子さんによる「夜も眠れない」開発者の悩み、そして第二部はIT企業で長年の海外勤務をされ、その後起業された田中幸子さんから海外の人と一緒に仕事をする際に知っておくべき世界の食習慣についての講演がありました。

第一部 「夜も眠れない…商品開発の悩み」

吉田睦子 (株)桃屋 研究所 研究課長

<プロフィール>
1962年  北海道根室市歯舞生まれ
1985年  岩手大学農学部農芸化学科卒。(株)桃屋入社 研究課配属。
研究と開発を主とするが品質管理、調達、営業にも携わって現在に至る。
趣味は飲酒とエレキギター。

江戸むらさき」や「ごはんですよ」など日本の伝統的な食品の代表を世の中に送り続けている桃屋の研究所で、まさに毎日、研究開発の重責を担っている吉田さん。そのプロフィールからもお酒、エレキギターがご趣味と、幅広い興味を持たれ、豊かな人脈を築いておられることが伺えます。

吉田さんのお話の内容は以下の構成でした。

  1. 海苔佃煮のおはなし
  2. こだわりの原料のおはなし
  3. 開発商品「角切り海苔佃煮」のおはな
  4. ヒット商品「辛そうで辛くない少し辛いラー油」のおはなし
  5. 商品開発の悩み
  6. まとめ

どの部分も興味深い、美味しそうなお話で、楽しいイラストとクイズがたくさん盛り込まれ、会場の参加者も引き込まれ、クイズの解答に頭をひねっていました。私たちもこんなに身近な食材についてのミニ知識を得て、あちこちで自慢げに語れそうなことが満載でした。ついつい「なぜ?」と問うことを忘れて当たり前と思っていることに、それぞれ理由があったり、陰で数え切れない程の研究や実験を重ねて現在の商品の形になっていることを知りました。

海苔だけでなく、ザーサイやメンマ、そして吉田さんが担当されたという「角切り海苔佃煮」の開発にまつわるお話は、開発に参加したような共有感や愛着を感じることができました。角切り海苔のあの不思議な食感を残すためにどんな工夫をされたか、昔懐かしい「のり弁(当)」から発想されたというエピソードは、やはり日本人、日本の味への郷愁を呼び起こされました。

ご苦労がいつも日の目を見るわけではなく、渾身の開発企画が上層部に通らなくて悔しい思いをされたこと、新しいヒット商品を求めて昼も夜も考え続け、眠れない苦しみを味わっておられることなど、楽しげな商品のラベルやイラストからは想像できない技術者の悩みもお持ちだとわかりました。また、独自の社風と、伝統と一流の味を守ってこられた秘密を垣間見た気がしました。

技術的成功が売れる商品に結実するためには、何らかのプラスアルファの要因があるようです。最近の知る人ぞ知る大ヒット商品「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の人気には、ネットの口コミの力も大きく作用したと伺いました。帰りには参加者におみやげもいただき、桃屋ファンが確実に増えたことと思います。

参加者からは活発な質問や感想をいただきました。

(株)桃屋HPはこちらから

第二部「『仕事を通してみた食の多様化』グローバル・ビジネスの経験を通して

田中 幸子 (株)I.N.O. 代表取締役

<プロフィール>
日本のIT企業に在籍中20年の海外勤務(欧州・中近東・アフリカ、ロシアなど)において、現地スタッフと共にシステム・サービス・ビジネスを展開。3年前に帰国され、I.N.Oを起業。現在は日本を足場に多国籍企業のビジネス支援、特に問題解決、情報共有などの支援を行っている。現在ベトナム、インドとのビジネス支援が主で、前線での仕事を続けている。又Diversity&Inclusionをテーマに世界の関係者との情報共有、事例調査および日本企業への提案を行っており本年度は中国でのD&Iのプロジェクトを進める。

オフで今一番の関心事は日本の文化。特に古典芸能や失われつつある江戸の食文化の探索。時間を作っては旅行、山歩き、そして、歌うことを楽しんでいる。

第二部は海外の食の話で田中さんにバトンタッチ。田中さんのグローバル・ビジネスの多彩なご経験から、普通の日本人が理解していない食の違いや多様性についてお話いただきました。

田中さんのお話は次のような構成です。

  1. 私が学んだ食の多様性
  2. 今、あなたの周りに何が起こっているか
  3. 食の重要性
  4. 食の多様化
    • 宗教の切り口から
    • 健康・哲学の切り口から
  5. 提案したいこと
  6. これだけは知っておきたいビジネスの常識

今回の田中さんの話の背景にはアメリカでのユダヤ人世界との触れ合い、オーストラリアでの多国籍(ロシア、チェコ、オーストリア、イギリス、中国、オーストラリア)メンバーの組織の長としての経験、またアジア諸国とのビジネスを通じてのイスラム世界との接触、そして、英国での階級によって異なる食とマナー、地域に密着して発達したエスニック食、EMEA(欧州、中近東、アフリカ)における宗教と食の結びつきなどの様々な経験と学びがありました。

今、私たちの周りで実際に起きている例として田中さんがあげられたのは、

  • 江東区と江戸川区にあるインド人コミュニティー(宝飾業とIT要員が多い。ヒンズー教、ジャイナ教、多神教などが混在)では地域の病院で英語のわかる医療スタッフの不在と入院患者の病院食が課題となってきている。
  • 新橋のIT企業でマレーシア人を受け入れているが、業務時間内の祈りの場所の設置、断食期間の仕事の割当てへの理解と対応、イスラム教で許可されるハラール食品の入手先や提供するレストランなどの情報提供が必要となっている。
  • SW開発会社で作業中のイスラエル人に対し、ユダヤ教で許可された食品の入手先や提供するレストランなどの情報提供が必要になっている。

などである。同じ職場で働く人たちに対して、言語だけでなく、食事や祈りの習慣などにも配慮しなければいけないということに気づかされた。

次に、なぜ「食」が重要かということ。“食べることは生きること”と同義であり、人間が動物と異なるのは、「料理をすること」と「共食すること」の2つであると強調された。「共食」とは共に食べることによるコミュニケーションで、そこから発生して食規範、食作法、ルール、タブーができる。従来は一定の場所で生まれ育まれた食文化が人の移動によって異文化交流が行われ、食文化が多様化する。例としてイスラム教、ユダヤ教、ジャイナ教など、独特の宗教的な信仰に根付く食の伝統と規範を意識的に守ることにより民族の存続を支えているので、私達も十分な敬意と理解をもたなければならない。

世界の宗教の分布はキリスト教33%、イスラム教21%、ヒンズー教14%、仏教6%、ユダヤ教0.2%、その他25.8%となっている。イスラム教、ヒンズー教の多さと仏教の少なさは予想外であった。
イスラム教ではイスラム法によって、食べてはならないもの、食べてよいものが定義されている。酒は厳禁、また左手は不浄、ラマダーンの月の断食など。また、ユダヤ教については旧約聖書に、特に飲食に関する戒律(カシュルート)で食べてはならないもの、してはいけないこと(肉と乳製品を同時に食べる、正しい処理の仕方をしていない肉を食すなど)が書かれている。
ジャイナ教はインド発祥の宗教で殺生を戒める思想が根本にあり、動物だけではなく、地中の虫を殺さないために農業は行わず、根菜類も取らない。酒、醗酵品は禁止、8日間の断食があるなど、日本ではあまり知られていないが厳しい規範がある。

宗教とは違う面で健康面、環境保護、人道主義などの方針から、世界にはベジタリアン、マクロビアンなどが存在する。ベジタリアンには厳密な菜食、卵を含む菜食、乳製品を含む菜食、などの違いがある。また、マクロビアンは玄米や穀類を主食とし、砂糖、化学調味料、肉、乳製品は採らない、地産無農薬食材を使用するなどの特徴がある。

食の多様性への対応として、飛行機での食の選択肢として、ヒンズー食、菜食ヒンズー食、イスラム食、ジャイナ食、ユダヤ(コーシャ)食、ビーガン(厳格な菜食)、卵・乳製品を含む菜食、その他糖尿病患者用食などが用意されているそうだ。

田中さんからの提案はDress Code(服装指定)とDietary Requirement(食事に関する要求)は世界とビジネスをする際に留意すべき常識であり、正しく理解する必要がある。違いを知り受け入れ、相手の食文化を知ると同時に日本の食文化の良さを紹介し、互いの理解を深める。食を通して相手の国や文化への敬意を深めることができると結ばれました。

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